一般社団法人スポーツ・コンプライアンス教育振興機構

スポコン随想

2022.12.28

♯16「スポーツ界の暴力の系譜」

2022年8月、福岡市の私立高校1年生の女子生徒(15才)が自殺しました。原因は、所属していた部活動の剣道部での顧問の男性教諭による「不適切な指導」でした。この生徒は、特待生として入学し、部活動に参画していましたが、過酷な練習(3キロランニング後、素振り1840回を1時間以内で行うなど)で腕足を痛め、練習についていくことが難しくなっていたようです。竹刀で突く部員の前で突き倒す、足を踏まれて爪がはがれるなどの暴力行為が続き、「貴様やる気あるのか」などの暴言もありました。
 そして、8月29日「死ぬために部活休んだ」と自身のツイッターに投稿して、列車にはねられ自ら命を絶つのです。わずか15年の生涯となりました。 学校内の「不適切な指導」どころではなく、明らかな暴力行為の繰り返しが、からだを傷つけ、心を傷つけ、自殺を招いたのです。この顧問らに出会いさえしなければ、これから70年、80年以上もあったであろう豊かな楽しい人生を送ることができたはずです。

 2022年9月、兵庫県姫路市の女子高校ソフトボール部。地区大会の折、顧問の男性教諭が新部員の女子生徒(1年)がユニフォームを忘れてきたことに腹を立て、平手で生徒の左頬を叩き、顎が外れた外傷性開口障害をきたしました。「お前なんかいらん」などの暴言を浴びせたり、翌日にも生徒の尻を蹴ったり、頭を叩いたりするなどの暴行を働いていたといいます。生徒たちから「怖い先生」と言われていたようです。

 映画『人間の条件』(五味川純平原作/小林正樹監督/仲代達矢主演/全6部、1959~1961年、松竹)は、戦争における人間性(人間性をいかに保つことができるか)を描いた重厚な作品です。その中で、陸軍の兵士たちの中で、上等兵らの二等兵らへの暴力行為や体罰が克明に描かれています。 絶対的服従の上下関係があり、一切の対話は無視され、いきなり頬を殴られるなどの暴力行為や無意味な罰ランや腕立て伏せが指示されるのです。
 そして、そうされていた二等兵らが上等兵らに昇進すると、新たにやってきた二等兵らに同じような暴力行為をし、体罰を指示するのです。

 スポーツ界に今なお残る暴力行為・体罰・暴言は、こうした軍隊の中での理不尽な言動と酷似しています。「負の連鎖」が続いているのも共通しています。
「結局、殴られたやつが殴る」という構図が伝染し、「叩かれて強くなった」という「間違った成功体験」が合理化されて罪の意識は希薄化されてしまうのでしょう。 スポーツ界での暴力行為は、根源的には(1)対話(コミュニケーション)の不足、(2)指導力の不足、(3)怒りのマネジメント(対処法)の間違いによるものととらえられます。 スポーツには、楽しさと人間的成長、人と人との絆の醸成という大切な価値があり、だからこそ皆がスポーツを愛し続けているのです。
 その「負の連鎖」を絶つ努力を止めてはならないのです。スポーツが大好きなあたら若く大切な命を失くさないために。

 

 

 

 

 

 

執筆:武藤芳照

連載コラムSpocom随想一覧はこちら

pagetop